ラボ駅伝

駒澤大学で行われている研究を、リレー形式で紹介する連載メディアです。創造的でユニークな研究を通して見える「駒大の魅力」をお伝えします。

学びのタスキをつなぐ 駒澤大学 ラボ駅伝

第14区 遠藤歩講師

臨床心理学とカウンセリング

他人は自分を映す鏡。たくさんの人と出会えば出会った数だけ自分の心も見えてくる。

会社や学校、そして人間関係の中で、多くの人が "心の問題"を抱えている現代社会。スクールカウンセラーや組織におけるメンター制度など、心を支援するしくみづくりも進められ、2015年には日本初の心理学の国家資格として「公認心理師」も創設された。遠藤先生は心理学を基盤とし、臨床現場で心と心が繋がる瞬間を追い求めている。

心理学は、人の心の複雑さを理解するもの心理学は、
人の心の複雑さを理解するもの

遠藤歩講師

私の専門は臨床心理学、とくにカウンセリングや心理療法です。これまで中学、高校、大学などの教育?研究機関や医療機関で、心理支援の実践を行ってきました。
私は高校卒業後、しばらく進路に迷っていた時期がありました。そんなとき、ある大学の先生のお話を伺う機会があり、その方が私たちをひとりの人間として扱ってくれている印象を受け、人と人とが繋がることの可能性を感じました。そこで、その先生の下で学ぼうと決めました。その先生がたまたま心理学の教員だったので、私も心理学を志したのです。
今思えば、対人関係への関心や青年期特有の社会に対する不信感などを抱えていたということもあったと思います。そういうきっかけでしたので、最初からカウンセリングや心理療法に興味があったという感じではなかったですね。
その後、先生に付いてカウンセリングやその哲学、技術などを学んでいくうちに、人と人との関係の可能性をさらに深く考えるようになりました。こうして、臨床心理学の研究の道に進むことになったのです。
心理学を専門としていると言うと、「人の心がわかるようになりますか?」と聞かれることがよくあります。けれど、心理学の研究をいくら重ねても、人の心が本当にわかるということはないのではないでしょうか。むしろ「人の心は複雑なものだ」という現実への理解が深まっていく。ただ、クライアントと対したときに、「こういう場合にはこういった視点が役に立つ」ということは、多少は明確になっていくと思います。

支援者はクライアントにどう向き合うべきか支援者はクライアントに
どう向き合うべきか

臨床心理学は病気や病人に関係した心の問題を扱います。研究としては、クライアント支援の方法を探るものが多いのですが、私の関心としては、心理療法や支援の基盤となるクライアントと支援者の関係性や、関係性が及ぼす影響といったところに惹かれ取り組んでいます。

関係性については、クライアント中心療法のカール?ロジャーズの理論はもっとも有名なものです。ロジャーズはカウンセラーの3条件として、「純粋性」、「受容」、「共感的理解」を提唱しました。「純粋性」は治療者が関係の中で自分自身であろうとすること、「受容」はクライアントを決めつけず、一個の人間として大切に感じていること、そして、「共感的理解」はクライアントの内的で私的な世界を、あなたの世界としてそのままわかると感じていることです。

ロジャーズは治療者側の体験の特質を記述しましたが、これらはカウンセリングやあらゆる心理療法に通じる基礎的な態度と言えると思います。私の興味は、こうした支援者側の要因がどのように働けばより良い結果に繋がるのか、つまり、支援する側がいかにあるべきかということにあります。

カウンセリングや心理療法の結果として、クライアントの何かが変化するということはありますが、その前に、支援する側が何らかの変化をするということが大切であり必要だと思います。例えば、カウンセラーが共感を体験する過程は、変化のひとつといえます。カウンセラーがクライアントと向き合うときに、どのように自身の"ありよう"を模索し、目の前にいる方に合わせて変化できるか。それがカウンセラーにとっての大切なことだと考えています。

遠藤歩講師

良い支援者となるための方法論や人と関わるための糸口を提案したい
良い支援者となるための方法論や人と関わるための糸口を提案したい

今は基礎研究の段階ですが、将来的には支援者とクライアントがより良い関係性を結ぶための何ら